嶺岡牧は石切で賑わっていた シンポジウム「嶺岡牧の姿に迫る」開催
南房総市 千葉県酪農のさと

 嶺岡牧は日本に4箇所あった江戸幕府直轄牧の一つだが、八代将軍徳川吉宗により白牛を放牧し酪農が始められ、明治維新後も日本酪農之拠点となり牧経営が続くなど、他の江戸幕府直轄牧とは異なる歴史を歩んだ個性的な牧。牛乳食の起点として日本の食生活を近代化した複合的日本食生活近代化遺産であることから、世界遺産が適当な安房地域に残された最大の歴史遺産といわれている。
 しかし、調査研究がほとんど行われてこなかったため、形状、構造など基礎的なことさえ全く分かっておらず、巨大な歴史資源であるにもかかわらず地域再生の資源として活かすことを妨げてきた。そこで、千葉県酪農さとでは2011年から、嶺岡牧の実態に迫ることを目的として調査事業を進めてきた。
 この調査で、嶺岡牧の紹介本にわずか1.9㎞しか残っていないと記されている野馬土手が40㎞確認され、嶺岡牧の形状を地図で捉えられるようになるなど、実態が次々と明らかになってきた。とりわけ、2015年から2016年の調査で、嶺岡牧の経営実態に近づく発見が相次いだ。千葉県酪農のさとでは、これら嶺岡牧調査の結果を報告するとともに嶺岡地域再生に活用する道を検討するため、シンポジウム「嶺岡牧の姿に迫る」を開催することとした。
 シンポジウムは、嶺岡牧調査を企画・担当してきた日暮晃一氏をコーディネータとし、日暮晃一氏が考古学調査から「嶺岡牧が地域経済を活発にした」を、金澤真嗣氏が「古文書からみた17世紀の嶺岡牧」、滝口巌氏が「鴨川市域の集乳所を訪ねて」と題する基調報告が行われる。この基調講演に対して、富里市教育委員会の吉林昌寿氏、館山市教育委員会の岡田晃司氏、一般社団法人地域環境資源センターの川口友子氏がコメントを行ったあと、参加者を交えて討論が行われる。
 このシンポジウムで、嶺岡牧の学際的な悉皆調査により、先入観で定説のように語られていた嶺岡牧像を一変させる姿が浮かび上がってきたことが示される。
 第一に、嶺岡牧では江戸時代前期から給餌もある管理型放牧が行われており、野生状態になった「野馬」を年に一度捕獲する牧ではなかった。第二に、嶺岡牧は一面草原では無く、石積みや土盛りの野馬土手で細分さえた囲い地で、建物や構築物も多い景観だった。第三に、嶺岡牧は街道のみ人通りがある寂しい原野では無く、石切など生業の場になっていて、人が日々働きに来ており賑わっていた。いずれも他の江戸幕府直轄牧とは真逆。
 こうした科学的調査によって導き出された嶺岡牧の姿をもとに、集乳所などこれまで歴史的価値に気づかずにいたヘリテージ遺産に目を向け、地域再生の資源とする道を探る。
 シンポジウムは、3月4日(土)午後1時から4時半、千葉県酪農のさと酪農資料館で開催。参加費(資料代500円)。問合せ・申込みは千葉県酪農のさとへ ℡0470-46-8181。定員50名、先着順。

 

▫︎シンポジウム要旨 冊子 →【 PDFダウンロード

 

 
HOME BACK
© Ecology Archiscape