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江戸幕府直轄牧で唯一全貌が残る嶺岡牧 ~講演会で嶺岡牧調査結果を報告~

南房総市 千葉県酪農のさと

 嶺岡牧は、八代将軍徳川吉宗が牧に白牛を放し酪農を始めた「日本酪農発祥之地」。このことが起点となり、嶺岡牧及び周辺地域は、地域畜産会社の誕生地、主要製乳企業の起業地、チッコカタメターノ食文化の中心地となった。このように嶺岡牧は、牛乳・乳製品の喫食を通して日本人の健康を増進する近代的な食生活をもたらした複合的日本近代化遺産であり、「国指定史跡が適当」、「世界遺産に!」の声が高い極めて重要な史跡。しかし、牧の範囲、形状、構造など基礎的なことがまったく分かっておらず、利用・保存計画も策定できないことから、2009年から嶺岡牧の基礎的実態を明らかにすることを目的に基礎調査が行われてきた。

 この嶺岡牧調査により、嶺岡牧は、江戸幕府直轄牧のなかで唯一全貌が残った、極めて遺存状態が良好な牧跡であることが確認された。嶺岡牧は、イギリスの囲い込み運動でつくられた景観とそっくりで、丘陵に広がる放牧地を石垣で細かく囲んだ景観であった。一面の草原に半野生の馬が点々といる広重が描いた小金原(小金牧)の絵とは全く違った景観であった。石積みで囲まれた放牧地には、小区画毎に飼養管理用の小屋を建て、水飲み場を掘り、村落単位に当時の種畜場である仮囲を設けて品質管理を行うなど、管理型放牧が行われていたことも判明した。

 江戸幕府直轄牧として、小金牧の中野牧捕込や周辺の野馬土手が国指定史跡に指定されているが、周囲は都市化が進み、牧の面影は残っていない。千葉県北部の江戸幕府直轄牧は、小金牧、佐倉牧とも都市化で江戸幕府直轄牧の遺構はほとんど残っていない。これに対して全貌が残る嶺岡牧は、現地に立って、牧であった時代の姿を自分の目で確認し、体感で総合的に歴史を捉え、現在・そして将来の暮らし方を考えることができる。

 千葉県酪農のさとでは、6月24日に行う講演会「食べて元気に!の起点:嶺岡牧」で、調査を担当した日暮晃一氏がこれまでの嶺岡牧調査の結果を、「嶺岡牧の魅力」の角度からまとめ、全貌が残る唯一の江戸幕府直轄牧だから楽しめる嶺岡牧の跡を訪ねる魅力が示される。また、日本大学生物資源科学部助教の佐藤奨平氏が「乳酪の郷を訪ねる」と題した講演で、嶺岡牧の個性である近代的乳食文化の原点に注目し、安房地域に残る酪農・製乳業の跡を歩いて知ることが、具体的にルートで提案される。

 講演会は、6月24日(土)午後1時半から3時半、千葉県酪農のさと酪農資料館で開催。参加費(資料代500円)。問合せ・申込みは千葉県酪農のさとへ ℡0470-46-8181。定員50名、先着順。

 

北風原で発見された嶺岡牧の大木戸跡
昭和14に開設された和光堂千歳牧場の畜舎跡(現黒澤牧場)

 

 
 
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